La déconstruction des idoles ──アイドルの脱紺築 chapitre deux

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ライヒの「ピアノフェイズ」を、頼まれもしないのに、
中澤裕子さんに御解説さしあげちゃおうコーナー

04/07/09放送のNHKFM『気ままにクラシック』の中で、
番組でかかった曲、ライヒの『ピアノ・フェイズ』というミニマル音楽に興味をそそられたらしい裕ちゃん。
裕ちゃんが、かっこいい現代音楽に興味を抱いたことは、おいらにとってはとても嬉しいことでした。
せっかくですのでこの機会に、より現代音楽に親しんでもらおう、と考えまして。
それで裕ちゃんに、簡単にミニマル音楽を(勝手に)御解説さしあげてしまおう、という企画をやってしまうことにしました。
「いやいやいや。裕ちゃん、読んでないし」というツッコミは、なしの方向で。

1 ミニマル・ミュージックとは

スティーブ・ライヒが作る音楽(特にその初期の作品)は、ミニマルミュージックと呼ばれています。
ミニマル音楽は、現代音楽のジャンルとしては異例の大流行となり、ポピュラー音楽にも大きな影響を与える一大潮流となった音楽の様式です。
最小限(ミニマル)な、素材を組み合わせることで、複雑な結果、多様性を生む、という操作が特徴的な作曲技法です。
この作曲技法とそこから生まれる斬新な響きは、テクノミュージック(ダンスミュージックの最先端ジャンルの一つ)に多大な影響を与えました。
とりあえず、ライヒについて知ろうとするなら、以下のサイトなどが参考になるでしょう。

《関連リンク集》
Reich Home Page
関心空間:スティーブ・ライヒ
Steve Reich
think or die:テクノの第一公理

……などを、取り急ぎご参照くださいませ。

2 「ピアノ・フェイズ」の仕組について

裕ちゃんが、番組中に聴いて、興味をそそられたこの曲。
これは、初期のライヒのミニマル音楽の代表的な作品の一つです。

とりあえず、簡単に言ってどういう仕組みになっているのかを、前半のみに限ってご紹介したいと思います。

左手はE,H,Dという3つの音を延々と繰り返します。EHDEHDEHD……
右手はFis、Cisという2つの音を延々と繰り返します。FisCisFisCisFisCis……
左手で3つの音を繰り返し、右手で2つの音を繰り返す。ピアニストが弾く音はこれだけ。非常にシンプルです。それがミニマルと呼ばれる由縁です。

さて。ピアニストはその合計5つの音を左右交互に弾きます。
すると……
FisCisFisCisFisCis
という12個の音からなるパターンが出来ます。
これを、二人のピアニストが同時にユニゾンで弾き、ひたすら繰り返します(曲の冒頭)。
(今、この12個の音に便宜上「あいうえおかきくけこさし」という名前をつけることにします)
第1ピアノ:
第2ピアノ:

さて、このままだったら、延々と同じことを繰り返すだけなんですが、そこで、次の作業は。
第2ピアノが、少しずつテンポを遅らせて、音をずらしていきます。
聴いた印象としては、音がだんだん滲んできて、輪郭が曖昧になり、エコーが掛かったような感じになります。
最初 と聞えていた音が、音符一個のちょうど半分の長さ分、ズレた時には、
タタカカタタカカタタカカ ……と聞えます。理屈、分かりますよね。
さらにズレていって、ついには、音符一個分ずれてしまいます。
その結果、聞えてくる音は、
第1ピアノ:
第2ピアノ:
……という状態になります。そして、この作業を繰り返して、
第1ピアノ:
第2ピアノ:

第1ピアノ:
第2ピアノ:

第1ピアノ:
第2ピアノ:
……とズレていき、最後には、
第1ピアノ:
第2ピアノ:

第1ピアノ:
第2ピアノ:
……と、周回遅れになって、再びユニゾンになります。
以上が、この曲前半の仕組みです。
この間、二人のピアニストはひたすら5つの音を弾いているだけなのですが、ふたりのテンポが少しづつズレることによって、全体としての音の風景はどんどん変化していきます。
単純な素材から生まれる多様性、その多様性を生むプロセス、操作の妙。それがミニマル音楽の興味深い点です。

ね。面白いですよね。

3 涼しい感じ

ゆうちゃんは、この曲を聴いて「涼しい感じでよかった」と感想を言っていましたね。
それはまさに適切なコメントだと思います。
聴いて分かる通り、この曲には、メロディーらしいメロディーもハーモニーも何も存在しません。普通の曲のように、「楽しい」とか「切ない」とか「あったかい」とか、感情に訴えてくる要素が極端に少ないのです(その意味でもミニマル)。
ミニマル音楽は、知的な興味と、耳に対する生理的刺激の変化という部分に訴えるので、感情を揺さぶられることが少ないのです。そこで、心の「温度」の変化が感じられず、「Cool=涼しい」という印象が生まれるのだと思います。

*       *        *

冒頭でも書きましたが、ライヒたちのミニマル音楽は、ポピュラー音楽、その中でも特にテクノというジャンルに多大な影響を与えました。
ライヒを尊敬するテクノのアーティストが結集して、ライヒ作品のリミックスを集めたコンピレーションアルバムも作られているほどです。

ですから、番組でたまたま掛かった「ピアノ・フェイズ」を聴いて「おっ」と思った、裕ちゃんの感性は、実にイイ線行ってる、というか、先端的なものを嗅ぎ分ける若いセンスを持っていると。
いやいやいや。センスが若いなんて言って褒めた気になっているのは逆に失礼ってモンですけども。はい。

あー、なんか、裕ちゃんの心にしみる歌声を、バリバリ、ゴリゴリのテクノトラックに乗せたコラボレーションが聴いてみたくなりました。きっと素晴らしいと思います。『Club Hello!』どころじゃないかっこよさ?
あー、そういうの、自分で作ってみたくなったっ!
浮遊感溢れるテクノサウンドに乗せた『音無橋』とか……あるいは、テクノじゃなくても、アシッド・ジャズ風のサウンドに乗せた『東京美人』とかさー。
あー、聴いてみたい。
つんく♂さん、事務所の社長さん、是非御検討下さい。

参考 ライヒを聴くなら……

おいら自身は、実はそれほど熱心なライヒ愛好家ではないんですが。
しかも、現代音楽をたくさん聴いていたのは、今から十年ほども昔の話で、最近の新しい曲は知らないので、情報が古くて申し訳ないんですけど。
でも、頑張って、「聴きやすさ」を基準にして、オススメの曲をあげるとすれば、
『六重奏曲』
『砂漠の音楽』
『ディフェレント・トレインズ』
あたりから入ってみるのはいかがでしょうか?
楽しめると思いますよ。

('04/07/12初出)